妊娠・出産には、卵子と精子が出会い受精し、子宮に着床して順調に発育していく必要があります。しかし、体外受精や顕微受精によって胚を移植したにも関わらず、着床せず流産を繰り返してしまうことがあります。
その原因には、子宮や胚自体の問題、それぞれが複雑に絡み合う場合などがあります。

着床障害

受精卵が着床できず、妊娠に至らない場合を着床障害と言います。特に、体外受精や顕微受精で胚移植をしたにも関わらず、繰り返し着床できない状態が続く場合は反復着床不全と診断されます。

習慣性流産

3回以上、流産を繰り返す場合は習慣性流産と診断されます。この場合は、次回以降も流産を繰り返すことが多く、原因を探る必要があります。
また、妊娠したにも関わらず流産や死産を繰り返す場合は、広義の意味で不育症と呼ばれています。
流産自体は珍しいことではなく、岡崎コホート研究(名古屋市立大学産婦人科と公衆衛生学鈴木貞夫教授が実施)では、健診を受けた合計2,733人の日本人女性へアンケートを行ったところ、習慣性流産の頻度は0.9%、不育症の頻度は4.2%でした。また、妊娠したことのある女性の38%が流産を経験しているとのことです。なお、流産は加齢とともにその割合が増加します。

引用)Sugiura-Ogasawara M, et al., J Obstet Gynaecol Res. 2013; 39: 126-131

着床について

排卵は、LHサージと呼ばれる一過性で大量のLHの分泌により起こります。卵巣は左右2つありますが、どちらか一方から排卵がおこります。排卵された卵子はイソギンチャクやラッパのような形をしている卵管采に捕獲され、精子を待つことになります。精子は2〜3日、長い時では1週間生存しているのに対して、卵子はおよそ24時間と短く、この間に卵子と精子が出会って受精に至ります。
受精卵は卵管の中を通り、5〜7日かけて子宮まで移動し、子宮内膜に接着します。このいずれかの過程に問題があると着床ができないこととなります。

主な原因

    子宮因子によるもの
    胚因子によるもの
    ホルモンの異常によるもの
    抗リン酸脂質抗体によるもの
    Th1/Th2バランスの不均衡によるもの

<子宮因子によるもの>

子宮内膜が薄い、子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮奇形などがある場合は、着床障害や習慣性流産を引き起こすことがあります。

・子宮内膜が薄い

着床に適する子宮内膜の厚みとしては、7-8mm以上を目安としています。
胚移植の際も多くはこの厚さを満たした場合に行われるクリニックが多いようです。着床のために子宮内膜が7-8mm以上に成長できるように整えていく治療が行われます。

子宮筋腫

子宮は、上部を占める子宮体部とその下の子宮頸部に分けることができます。その内側は子宮内膜で覆われているわけですが、子宮筋腫は子宮内外にできる良性の腫瘍です。良性ではありますが、発生する場所によって辛い症状を抱えることも多く、不妊の原因ともなり得ます。
子宮の外側に筋腫ができる漿膜下筋腫と、筋層内にできる筋層内筋腫、子宮の内側に向かって成長する粘膜下筋腫があります。

漿膜下筋腫

子宮の形に大きな影響を及ぼさないため、大きくなるまで自覚症状がないこともあります。細い茎がつながっている有茎漿膜下筋腫では、何らかのはずみで茎が捻れてしまった場合には、非常に強い痛みを伴います。

筋層内筋腫

子宮の筋層に複数できるのが特徴です。過多・過長月経を引き起こすことがあり、塊のような経血が見られることもあります。

粘膜下筋腫

子宮の内側に向かって大きくなるため、ひどい月経痛に悩まされることがあります。また、子宮内の形も変化するため着床しにくくなることがあります。

子宮内膜ポリープ

子宮内膜にイボのようなものができます。大きくても数cm程度のため自覚症状を伴わず、超音波検査などで初めて判明することもあります。良性であることが大半ですが、子宮内膜にできるため着床を阻害し、不妊を招く要因にもなります。

子宮奇形

子宮は洋ナシを逆さにしたような形をしていますが、異なる形や中に壁があり2つに分かれているような形を持つ方がいます。この状態を子宮奇形と言います。
月経不順や不妊、習慣性流産の要因になりますが、その大半は無症状で超音波検査や内診などの検査で初めて判明することが多く見受けられます。自然妊娠した場合には、分娩時に異常を生じる場合もあります。

中医学による養生

<子宮因子>

*子宮内膜に対して
漢方では、着床に向けての子宮内膜の状態を
①内膜の厚さ
②内膜の硬さ
③内膜の感受性
に分けて対応します。

①内膜の厚さ
内膜の厚さは、着床する上で重要です。エコーで測定しつつ、排卵期に10mmの厚さを目ざし治療を組み立てます。
また、エコーをしない場合は、内膜の厚さは、経血量、血液量、おりものと関係がありますので、それらの状態を確認することで予測ができます。

内膜の厚さが十分でない方の体質は
・血虚(血が足りない)
・気血両虚(エネルギーと血の両方が足りない)
・腎陽虚(生食能力を司る腎の熱エネルギーが足りない)
・腎精の不足(生まれ持った妊孕力の不足)
などが考えられ、これらの体質を改善させて内膜の厚みを増やしていきます。

②内膜の硬さ
内膜の厚さはエコーで見ることができますが、硬さを推し量ることはできません。
中医学では、内膜が硬い状態にある時は、剥がれる時に痛みが出るため、生理痛が出やすいと考えます。また、経血の色が暗褐色であり、血塊などもみられます。

こちらの原因となる体質は
・瘀血(血の流れが悪い)
・血寒(血が冷えている)
・気血両虚による血瘀(気や血が不足して、血を流すことができない)

などがあり、これらの体質改善を目指します。

③内膜の感受性
着床は、子宮に受精卵が根付く時に起きる炎症反応と捉えます。
この炎症反応をしっかりと起こすことが着床力のある内膜だと考えます。

炎症が起きにくい内膜の原因となる体質は
・瘀血(血流が悪い)
・腎陽虚(生殖能力を司る腎の熱エネルギーがない)
・腎精の不足(生まれ持った妊孕力の不足)

などがあり、同様に体質改善を目指します。

*子宮ポリープ、子宮筋腫
子宮ポリープ、子宮筋腫ができやすい方は、
・瘀血(血流が悪い)
・水滞(水分代謝が悪い)
・痰湿(老廃物が溜まっている)
などの体質と捉え、筋腫が大きくならないよう、また、手術で摘出した場合には、再発しないように養生していきます。

<胚因子によるもの>

不育症には、胚の染色体異常により引き起こされることがあります。疑いがある場合には、染色体検査を行います。カップルのいずれかが染色体異常の保因者である場合、カップルのいずれにも染色体異常は認められないが染色体が分離されずに、数的異常が反復して発生する場合があります。
検査が必要な場合には、カウンセリングを十分に行った上で行われます。

引用)日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会,産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編,2017;P218-221

<ホルモンの異常によるもの>

黄体ホルモン(プロゲステロン)が十分に分泌されていないために受精卵が発育できず、子宮内膜が受精卵を受け入れる状態が整っていないことから起こります。基礎体温の高温相が10日以内、子宮内膜が薄い、排卵後6日前後のプロゲステロン値が10ng/ml未満の場合に黄体機能不全と診断されます。

また、潜在性甲状腺機能低下症と習慣性流産との関係も指摘されています。甲状腺ホルモン(TSH)の不足は、プロラクチン(PRL)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌量を増加させ、結果的に高プロラクチン血症を引き起こします。プロラクチン値が高ければ、月経不順や排卵の抑制も誘引します。

中医学での養生

黄体機能不全を起こしやすい方は、

・陽虚(熱が産めない)
・気虚(エネルギーが不足している)
・血虚(血が足りない)

このような体質と捉え、漢方薬や養生により黄体ホルモンの分泌を促す体質を整えていきます。
プロラクチン値が高い方へは、「気」の流れを整える疎肝剤や、炒り麦芽といった生薬を取り入れます。

<抗リン酸脂質抗体によるもの>

自己抗体である抗リン酸脂質抗体は、抗原抗体反応により血栓を生じさせ受精卵の発育に支障をきたした結果、流産を誘引すると考えられています。近年では、そのほか、胎盤機能不全や妊娠高血圧症候群にも影響を及ぼしていることが分かってきています。
漢方薬では、自己免疫の調整を目的とした処方を用いることがあります。

<Th1/Th2バランスの不均衡によるもの>

リンパ球であるT細胞のうち、Th1細胞とTh2細胞の体内における比率(Th1/Th2バランス)が高いケースでは、流産率が高いことが報告されています。
反復性の着床障害で、Th1/Th2バランスの比率が高い場合には、タクロリムスを服用して胚移植することなどが行われています。
漢方薬、生薬の中では免疫調整作用を持つとされるものを体質に合わせて用いることがあります。

引用)Hayakawa S et al.,Am J Reprod Immunol. 2000 Feb;43(2):107-15.

着床の窓(implantation window)

受精卵が着床できる適切な時期があり、「着床の窓」と呼んでいます。
この期間は1、2日程度と短く、この時に胚移植を行うことが着床・妊娠の鍵を握ると言われています。子宮内膜の組織を採取して遺伝子を分析するERA検査(子宮内膜受容検査)により、胚移植に最適な時期を予測することができます。

おわりに

着床障害、習慣性流産は、当事者にとっては、

・良好胚を移植しているのに着床しない
・着床しても流産してしまう

という非常に負担の大きい症状といえます。

現在では、検査で分かることも増えていますので、専門的なクリニックに相談することがお勧めです。

中医学では、着床障害、習慣性流産は、1つだけの原因で起きるのではなく、各原因を併発し、子宮環境不全を招き、着床障害や習慣性流産に繋がると考えます。
一言で着床障害、習慣性流産と言っても、体づくりとして取り組む内容は人によって異なります。カウンセリングを行い、その方にあう養生を考えていくことが非常に大切です。
専門的な知識を持った専門家に相談していただくことが大切です。
お困りなことがあればご相談ください。

参考資料)
日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会,産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編,2017;P218-221
Sugiura-Ogasawara M, et al., J Obstet Gynaecol Res. 2013; 39: 126-131
柴原浩章編著,エビデンスを目指す不妊・不育外来実践ハンドブック,中外医学社P214-270
Hayakawa S et al.,Am J Reprod Immunol. 2000 Feb;43(2):107-15.

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