多嚢胞性卵巣症候群の方へ

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:polycystic ovarian syndrome)は、卵胞が何らかの原因により排卵が行われず卵巣内に留まった状態です。生殖適齢期の女性の約5〜8%に認められる排卵障害の一つで、不妊の原因となります。

多嚢胞性卵巣症候群とは

女性の卵巣内には卵胞が数多く保管され、ホルモンの調節により約1か月のサイクルで、卵胞の1つが成熟し、排卵されます。しかし、ホルモンの異常などで卵胞の発育に時間がかかったり、十分に発育できないままの場合、排卵されずに卵巣内にとどまってしまうことがあります。
この状態は多嚢胞性卵巣症候群と呼ばれ、無月経や月経の長期化などを起こす不妊の原因の1つとされています。

多嚢胞性卵巣症候群の主な症状

主な症状は、初潮時期を迎えたにも関わらず月経が始まらない場合や不規則な月経が続くことに加えて、ニキビが増え、声が低くなるなどの男性化の症状が見られます。
また、日本人多嚢胞性卵巣症候群の約20%は肥満や多毛がみられることも特徴です。

・無月経
・月経周期が長い、不規則など
・ニキビが多い、体毛が増える
・肥満
・不妊

多嚢胞性卵巣症候群の原因

多嚢胞性卵巣症候群の原因は明らかではありません。しかし、様々な研究から女性ホルモンや男性ホルモン値の異常、糖代謝が深く関わっているとされています。

多嚢胞性卵巣症候群では、血液検査で男性ホルモンのテストステロンや、黄体化ホルモンのLHが高値である傾向が認められます。脳下垂体から分泌されるLHが増え(生理3日目、LHがFSHの1.5~2.5倍)、卵巣に強く作用することにより、全体のホルモンバランスが崩れ、男性ホルモンの血中濃度の上昇がおこると考えられています。

また、近年ではインスリンも多嚢胞性卵巣症候群に影響を及ぼしていることがわかってきました。
インスリンは、すい臓のランゲルハンス島から分泌されるホルモンの一種で、血糖値の抑制に深く関わっています。血糖値を一定に保つことや、肝臓や筋肉での糖からグリコーゲンへの合成促進、分解抑制などに作用します。
しかし、インスリンが分泌されているものの反応が少なくなる「インスリン抵抗性」の状態がある方では、血糖値の高い状態となります。高血糖が続くと血管のダメージのほか、不妊症を引き起こすことが知られるようになってきました。

多嚢胞性卵巣症候群の診断

診断は卵巣の超音波検査や血液検査で行います。日本産婦人科学会による診断基準(2007)では、下記の3項目を満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群と定義しています(2項目以上でも診断されることがあります)。

・月経異常
・多嚢胞卵巣
・血中男性ホルモン高値またはLH基礎値高値かつFH基礎値正常

月経異常では、無月経や希発月経、無排卵周期症のいずれかが見られることとされています。また、多嚢胞性卵巣の現象を超音波で卵巣を確認すると、発育不足の2−9mmほどの小さな卵胞が連なっている状態が見られます。これは「ネックレスサイン」と呼ばれています。
このような小嚢胞が10個以上存在した場合を多嚢胞卵巣と判断します。
この時、卵巣表面が硬くなり、排卵誘発剤の服用だけでは排卵しにくいこともあります。

西洋医学による治療

BMIを計算して肥満がみられる場合は、第一選択として運動習慣や食生活の見直しと減量が勧められます。

BMI=体重(kg)/身長(m)2*BMIが25以上で肥満とされている

また、発症年齢や現在の年齢、妊娠希望など個々の要因にあわせて治療目標を設定します。

妊娠を希望される場合、排卵誘発剤のクロミフェンを服用します。クロミフェンは、脳の視床下部に働きかけることでFSHの分泌を促進させ、卵胞を成熟させる働きから、排卵を促します。
クロミフェンで排卵が得られない場合、注射剤の排卵誘発剤によるHMG-HCG療法(ゴナドトロピン療法)を行います。

インスリン抵抗性が原因の場合は、2型糖尿病治療薬のメトホルミンによる治療が行われることがあります。肝臓の糖生成を抑え、筋肉への糖の取り込みを促し血糖値を低下させます。インスリンの分泌量が減ることにより男性ホルモンの低下を含め、ホルモンバランスを整えます。
メトフォルミンは少量からはじめ徐々に増量されます。インスリン抵抗性の改善とともにクロミフェンの服用も検討していきます。

薬剤により効果が期待できない場合は、外科的手術を施すこともあります。
腹腔鏡下手術で卵巣表面に複数の穴をあけ、卵巣が排卵できない状態から排卵しやすい状態にします。排卵誘発剤を用いて卵胞の成熟を促す治療と異なるアプローチで排卵誘発剤でこる副作用が起こらないというメリットがあります。

治療による副作用

多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyper stimulation syndrome)に注意しながら治療を行います。
OHSSは、卵巣が排卵誘発剤などによる過剰な刺激により卵巣が腫れて痛みや腹水が起こる状態です。
多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣内に小さな卵胞が複数あるため、刺激により滞留していた卵胞に排卵への刺激が一度に加わることとなるためです。
OHSSと思われる腫れや痛みが軽症の場合は安静にして様子を見ますが、症状が進み重症化すると入院が必要となることもあります。
また、排卵誘発剤で卵子の発育を促すため、一度に複数の卵子が成熟し排卵するため、この時に受精が進むと多胎となる可能性があります。

漢方による対応

漢方では、多嚢胞性卵巣障害の原因を、腎虚(生殖能力を司る腎の機能低下)、瘀血(血流が悪い)、痰湿(余分な老廃物が溜まっている)、気滞(ストレス過多などによりエネルギーの流れが悪い)などの体質が複合していると考えます。
原因となる体質の改善を行うこと、また西洋医学の治療による副作用(OHSSや、クロミフェン内服による、内膜が薄くなる、頸管粘液の減少)を抑えることを目指します。 参考資料)

柴原浩章編著,不妊・不育外来実践ハンドブック(中外医学社)P50-53.
Hull MG,Gynecological Endcrinology 1987;1:235-245.
Polson DW et al, Lancet 1988;1:870-872.
日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会著,産婦人科診療ガイドラインー産婦人科外来編2017;P201~204.

*本内容は一般的な記述です。個々にお悩みなことについては、主治医・薬剤師にご相談ください。ウィメンズの漢方相談はこちら

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