AMH検査について
AMH検査は採血で行われる検査です。
採血検査であるため、術者の力量による検査結果の差が出づらく、侵襲も少ないことから、不妊治療における必要不可欠な検査として位置づけられています。
AMH検査(アンチミュラーリアンホルモン検査)でわかること
AMH値は「卵子の数を表しており、卵子の質とは関係がない」ということが挙げられます。
①卵子の数には個人差がある
卵子の数は、ひとりひとりにかなり大きな個人差があります。
「20代だけれど40代のように低い」
「40代だけれど20代のように高い」
というような方がいます。
卵子の数を知ることで、自分の身体の状態を知ることができ、治療プランも立てられますので、不妊治療を行う上では必須とされる検査です。
例えば同じ年齢の方で、AMHが高い方=卵子の残りの数が多い方、AMHが低い方=卵子の残りの数が少ない方、がいた場合、とるべき治療計画は変わってきます。
不妊治療では多くの場合、タイミング→人工授精→体外受精というようにステップアップをしていくことが多く見られますが、どれくらいのステップアップのスピードにしていくかに関わってくるというようなイメージです。
卵子の数がなくなってしまえば、施す治療はかなり限られてしまうため、体外受精などを検討している場合、いつ頃から始めるかを考えるうえでも重要な検査とされています。
そして、AMH検査は2024年6月から体外受精のみならず、一般不妊治療をされている方も保険適用で検査をできるようになりましたので、クリニックなどでの不妊治療を受けるのであれば、ほとんどの方が受けられるようになりましたので、ぜひ検査をお願いしてみてはいかがでしょうか。
余談ですが重要なこととして、卵子の数は減少するのみ、卵子の質は低下するのみであること、も知っておきたいポイントです。
〇〇をしたらAMHが上昇するとか、卵子の数が増える、というようなことはありませんし、卵子が若返るということもありません。
②卵子の質とは関係がない
そもそも卵子の質とは何かというと、簡単に言えば、妊娠率と最も直結する指標として考えられています。
卵子と精子が受精し、その後正しく発育して、妊娠し得る受精卵になるかどうかに、とても大きく関わっているとされています。
この卵子の質は、女性の年齢と最も関係が深いとされており、AMHが高いから卵子の質が高いということにはなりません。
実際に、生殖補助医療クリニックでは、AMHが1未満という方でも体外受精で妊娠出産したという報告が数多くされています。
AMH検査の結果を卵巣年齢という表現をされる方もいますが、この表現だと、AMHが高い≒卵巣年齢が若い、AMHが低い≒卵巣年齢が老いている、という捉え方になってしまい、「若い≒妊娠しやすい」「老いている≒妊娠しづらい」という誤解にもつながりやすいので、この表現を使用することは、個人的には避けたいものです。
AMH検査結果でわかることは卵子の残りの数だとシンプルに理解するのが良いかもしれませんね。
少しまとめますと、AMH値は卵子の数を表現しており、その数は個人差がかなりあるということ。
そして、AMH値は卵子の質とは関係がないとされているため、妊娠率とは直結していないということ。
をまずは抑えていただくといいと思います。
AMHのメカニズム
AMHを知るためには、まず排卵のメカニズムを知る必要があります。
排卵は
原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→初期胞状卵胞→排卵前卵胞(後期胞状卵胞)(月経の卵胞期)→排卵→黄体形成
という流れとなります。
AMHはここでいう前胞状卵胞から分泌されています。
前胞状卵胞は超音波検査では確認できないため、採血によるAMH検査で判定します。
AMHと同じように、超音波検査によって卵巣内の卵子の状態を確認しますが、これは初期胞状卵胞以降を確認しています。(AFC:アントラルフォリクルカウント、と呼ばれます)
AMHが高い場合の注意点
ここまでの内容からすると、AMHが高いことはいいこと、という風に捉えられるかもしれませんが、その限りではありません。
AMHが高い!と安心してもいられないのです。
実は、AMHが高すぎる場合には、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という症状が疑われます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、月経不順、無月経、にきびの増加、多毛、を主な症状とする原因不明の状態を指しますが、不妊治療という文脈で簡単に言うと、小さな卵胞がたくさんできすぎていて、卵胞がうまく育たない方で、排卵障害となられている方も多く、不妊治療にて卵巣刺激を行う際には、排卵誘発に大きく反応して複数の卵胞が育ちすぎてしまうという副作用に陥ることがあります。
この副作用は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼ばれます。
PCOSの方は、タイミング療法の場合でも、自然にうまく排卵できないという場合が多かったり、排卵誘発剤を使う場合も先述の卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠のリスクが高まるなど、治療のためにはケアが必要となります。
実際、ウィメンズ漢方でご相談をいただく方にも多くこのような方がいらっしゃいます。
AMHによって採卵数の予測ができる?
ここからは体外受精以上の治療に進まれる方にとって、AMHがどのように関わるかということを一部紹介していきます。
体外受精を行う場合、薬剤を用いて卵巣を刺激し、多くの卵子を育て、採卵術によって卵子を得ます。
このプロセスに置いて、採卵あたり妊娠率を最も高める重要な要素が、「一度でどれだけの卵子が得られるか」ということです。
AMHはこの採卵数を予測する因子としても用いられます。
AMHがこれくらいなので、こういう卵巣刺激法にしよう、と生殖医療クリニックでは考えていきます。
また、これはAMHだけではなく、前述のAFCも同じ働きをします。
そのため、毎回の検査で超音波検査を行い、より良い卵巣刺激をしようと考えられているんですね。
参照:Reliability of AMH and AFC measurements and their correlation: a large multicenter study.J Assist Reprod Genet. 2022 Mar 3.Philippe Arvis et al.
AMHは正倍数性に関係しない
少し難しい表現ですが、受精卵の正倍数性という言葉があります。
簡単に言えば、妊娠する可能性があるのは正倍数性の受精卵、ということです。
これまでたくさん繰り返して記載しましたが、AMHは卵子の数と相関していますので、質には関係がなく、この正倍数性とも関係がありません。
ただし、AMH値が高く、たくさんの卵子を得ることができた場合、正倍数性の受精卵の数も増加します。
例)
Aさん(AMHが低い方)が仮に、5個採卵→4個受精→1個の正倍数性の受精卵、という場合
Bさん(Aさんと同じ背景でAMHが高い方)は、15個→12個→3個、というように増加する可能性があります。
質的には変わっていませんが、量的に変わるというイメージです。
話がそれますが、こうした正倍数性などを調べる検査が、以前から注目されているPGTと呼ばれる技術です。日本では、PGTとも言われますし、着床前診断、着床前スクリーニング、着床前胚異数性検査、など様々な表現で紹介されています。
現在、先進医療Bで、一部の施設でのみ実施されています。
PGTについては、今後別に紹介していければと思います。